交通事故の損害は、大きく分けると被害者が傷害を負うことによって発生する人身に関するものと、車両などの被害者の所有物が損傷して発生する物的損害の二つがあります。
人身に関する損害は、傷害の内容や後遺障害の程度によっては、損害賠償額が膨れ上がりますので争いになることが多いですが、物的な損害についても修理費やレンタカー代などで争いになることがあります。そして、その物的損害の争いで問題となる損害の一つに評価損(格落ち損)があります。
1 評価損
評価損とは、交通事故にあった車両の事故前の価値と事故後の価値の差額のことをいいます。事故車両を修理しても、回復できない機能障害や外観の損傷が残存してしまったり(技術上の評価損)や、事故歴があるということで車両の価値が下がってしまったこと(取引上の評価損)についての問題です。
評価損については争いが多く(特に取引上の評価損)、一定の傾向はあるとはいえ、裁判例もマチマチです。示談交渉においては、交通事故の加害者加入の保険会社も評価損を認めることはほぼありえず、訴訟せざるえないことが多いでしょう(当事務所が扱った案件で、示談交渉で評価損を認めてもらった事案はありますが、それは他の特殊な争点がありましたので評価損が些末な問題でした)。
2 評価損の算定
交通事故による損害として評価損が仮に認められた場合に、次はそれをどのように評価するのかという問題があります。大まかな裁判の傾向はありますが、裁判例は様々です。
(1)修理費の一定割合で計算
評価損を修理費の一定割合で計算するのが、裁判例の大まかな傾向です。車種・初度登録からの期間・走行距離・修理の程度を考慮して、基本的に高くても修理費の30%程度の金額が認定されています。
(2)事故時の時価から修理後の価値を控除して計算
事故前の車両の時価から修理した後の車両の価値との差を評価損とする方法です。どれだけ価値が下がったか(減価したか)で算定します。
(3)諸要素を考慮して計算
車種・使用期間・損傷の程度、修理費用額、車両価格等を斟酌して金額を算定する方法です。
(4)車両の時価を基準に算定
事故時の車両時価の一定割合で算定する方式です。
基本的に裁判の傾向としては、外国車または国産人気車種で5年以上(走行距離6万キロメートル程度)、国産車で3年以上(走行距離4万キロメートル程度)の場合には評価損は認められにくいとされています。
3 一般財団法人日本自動車査定協会の事故減額証明書
一般財団法人日本自動車査定協会は、中古車の価格査定を行う第三者機関で、この機関が発行する査定書の事故減額証明書を裁判で証拠として提出されることがあります。評価損の評価の考慮要素の一つにはなると思いますが、裁判所がそのまま事故減額証明書の金額を交通事故の損害として認定することはほとんどありません。
4 評価損に関する裁判例
(1)大阪地裁平成14年6月25日判決(交民35巻3号888頁)
大阪地裁平成14年6月25日判決は、車両を購入してすぐに交通事故にあった事案であり、交通事故の被害者は修理費用ではなく、新車購入価格を主張しました。上記大阪地裁は、新車購入価格の主張を排斥したうえで、以下のように述べて修理費用の約3割を評価損として認定しました。
「原告車両はフェニックスという高価な外国製の大型自動二輪車の新車であり、新規に平成13年2月9日に自動車登録をして20日程度経過し、また7日程度で約300km走行しただけで、本件事故に遭遇したものであって、たとえ303万2935円を費やして修理しても外観や機能に欠陥を生じる可能性も否定できず、あるいは事故歴により商品価値の下落が見込まれることが認められるものであるから、上記修理に要する費用の外、損傷・修理内容、購入費用等を総合勘案して、本件事故による評価損として90万円を認定するのが相当」
(2)大阪地裁平成14年10月30日判決(交民35巻5号1438頁)
大阪地裁平成14年10月30日判決は、高速道路上の玉突き事故の交通事故の事案です。上記大阪地裁は、初年度登録から交通事故までに約2年7か月経過していること、走行距離は6万7000キロメートル以上であること、車両骨格部分に及ぶような重大な損傷ではないこと、各部品の取替により十分な修理がされていると考えられることや、修理後も不具合が生じているとか、本件事故前に車両の買い替えを予定していたと認めるに足りる証拠もないことなどを考慮して、評価損を否定しました。
(弁護士中村友彦)