交通事故で傷害を受けた後、治療を続けて、もはや治療しても意味がない状態になれば症状固定になり、後遺障害として扱われることになります。後遺障害は、様々な種類があり、自賠責の後遺障害等級で規定されていますが、重大な事故の場合、足に関する後遺障害が多いです。足の後遺障害では、骨折後に神経症状が残存したり、可動域制限が出たり、足がなくなったりなど多岐にわたりますが、その中の一つに足が長くなるというものがあります。自賠責保険の後遺障害等級表に記載はないですが、交通事故によって足が長くなった場合にも相当等級が認定されることがあります。
1 後遺障害等級一覧
足が長くなった場合の後遺障害等級の一覧は以下のとおりです。後遺障害等級の一覧にはありませんが、自賠責保険では、各等級の後遺障害に相当するものを後遺障害として認定しています。
等級 |
後遺障害の内容 |
後遺障害8級相当 |
1下肢が5cm以上長くなったもの |
後遺障害10級相当 |
1下肢が3cm以上長くなったもの |
後遺障害13級相当 |
1下肢が1cm以上長くなったもの |
2 足が長くなったこと
交通事故で、大腿骨や骨盤骨を骨折した後の骨の変形等により、両足の長さが異なるようになってしまうことがあります。画像で明らかなことが多いですから、足が長くなったことについて、通常争いにはなりません。
3 裁判例
足の長さの障害が2センチを超えると、跛行(歩行以上の一種)などが生じ、労働能力喪失があったと言いやすいですが、下肢長の場合には労働能力喪失率や労働能力喪失期間が争われることが多いです。
(1)神戸地裁平成14年1月31日判決(平成13年(ワ)247号)
神戸地裁平成14年1月31日判決は、歩行者と自動車の交通事故で、原告側は、過成長により1cm以上の下肢長が生じたので、後遺障害13級に該当すると主張しました。しかし、上記神戸地裁判決は、左下肢の過成長が1cm以上に至っていることを認めるに足りる証拠はないとして、原告の主張を排斥しました。
そのうえで、1cm以上か否かはさておき,左下肢に過成長が生じていること、これが拡大傾向にあり、成長終了時には1.5cm~2.0cmになる可能性があることが認められる等を述べ、後遺障害に基づく損害として全く評価しないというのは相当でないとして、後遺障害慰謝料を認めました。
(2)神戸地裁平成13年3月9日判決(交民34巻2号363頁)
神戸地裁平成13年3月9日判決は、交通事故で、被害者(11歳)の下肢の長さに1cmの差異が生じた事案で、逸失利益の有無が争われました。
上記神戸地裁判決は、被告の提出した意見書について、「一般的に下肢の短縮は2センチメートル以下であれば臨床上補高を要するほどの大きな問題はないこと、原告の場合は一センチメートルであるので、時間の経過とともに慣れによって障害による支障は軽減ないし消失する可能性が高く、この期間は概ね5年から10年くらいであると考えられること、小児のときに脚長差が生じる方が順応性が高いとされているため、原告の場合は、右の10年より短い5年程度で脚長差の問題が消失する可能性が高く、筋萎縮なども成長途中であることからやはり5年程度で解消する可能性が高いこと、したがって、原告の就労開始時点では、実質的な労働への支障は残存しない可能性が高い旨の意見が述べられていることが認められる」としたうえで、「原告はいまだ成長過程にあって、左右下肢長の差異が今後どのように変化するかも明らかではない上、右意見書も単に可能性を述べているにすぎないので、これをもって原告の就労可能時期に後遺障害が残存しないとまで認めることはできない。」として、被告の逸失利益がない旨の主張を排斥しました。
そして、上記神戸地裁判決は、後遺障害逸失利益について、後遺障害13級相当で、労働能力喪失率は9%、労働能力喪失期間は67歳として、584万6398円を認めました。
(弁護士中村友彦)