交通事故により、傷害を負って治療のために病院へ通った場合、通院のための交通費は損害として請求できます。但し、通院のための交通費は、一般的に治療が必要とされる症状固定までしか損害として認められません。しかし、交通事故により重度の後遺障害が残った場合などでは、将来において治療、リハビリ、検査のための通院が避けられない場合があります。その場合には、現実に必要となる金額が損害として認められます。
1 裁判例
東京地裁平成17年1月17日判決(交民38巻1号57頁)では、交通事故による後遺障害5級(脊髄損傷による右上肢機能障害、右下肢機能障害等)の事案で、「今後も日常生活動作を維持するための理学療法・薬物療法を要することが認められる。原告は、平成12年4月25日の症状固定時57歳であり、平成12年簡易生命表によれば、57歳男性の平均余命は23.8年であり、原告は、リハビリ治療費として、症状固定後、少なくとも23年間、平均年額21万4840円を要すると認める。23年間に対応するライプニッツ係数を用いて中間利息を控除した額は、請求どおりである。」として、将来の治療費を認めたうえで、「原告は、平成12年5月1日から平成13年4月30日までの1年間に、通院交通費として合計8万1410円を要したことが認められ、将来の治療の必要な事情に照らし、原告は、通院交通費として、症状固定後、少なくとも23年間、平均年額8万1410円を要すると認める。23年間に対応するライプニッツ係数を用いて中間利息を控除した額は、請求どおりである」として、将来の交通費を損害として認めました。
2 計算方法
1ヶ月あたりの平均的支出額を推定し、年額に引き直して、通院継続年数に対応するライプニッツ係数を乗じることになります。通院継続年数は、一般的に、上記東京地裁でも採用されているように症状固定から平均余命となります。(弁護士中村友彦)