交通事故の相談を当事務所が受けることは多いですが、交通事故で弁護士に相談する理由としてよく聞くのは、加害者が加入している保険会社の対応に納得できないというものです。交通事故の被害者が納得できないと言われる理由は様々です。
1 治療費の支払いの打ち切り
交通事故にあった場合、事故の内容等によっては、傷害を負いずっと治療を続けることになります。最初から、加害者加入の保険会社が治療費を支払ってくれないケースもありますが、通常では、保険会社が治療費を支払ってくれます。しかし、事故態様、症状の程度や保険会社によっては、事故後3ヶ月~6ヶ月で治療費の打ち切りを言い出します。交通事故の被害者としては、まだ痛いから治療を続けているのにと思い、通常納得することができません。加害者側の保険会社は、あくまでも加害者側の立場であり、金銭の支出を抑えようとしていきます。
当事務所が扱ったもので、一番治療費の支払いが長かった案件は、自損事故ですが、6年間支払い続けたものです。自損事故ですので、保険会社は自分の加入している任意保険でした。
2 保険会社提示の賠償額が低い
治療が終了して、症状固定をむかえた後、後遺障害の認定手続きなどをへたうえで、最終的に保険会社から損害賠償額が提示されます。当然ですが、保険会社はできる限りお金を払いたくないですから、裁判になったときの基準よりも大分低い金額を提示してきます。通常の場合、交通事故の被害者は、損害賠償についての知識がないですので、そのままのんでしまい損をしてしまう人が多いです。
3 事故態様や過失割合についてオカシナことを言ってくる
事故の態様について全然事実と異なることを言ってくることがあります。交通事故の被害者側が停止中に、加害者側がぶつかってきたにもかかわらず、被害者側が勝手にぶつかってきたのだというようなことです。また、事故態様について問題はなくても、過失割合で、どう考えても被害者側に過失がないようなケースで、お互いに動いているのであるから無過失はありえないというような主張してきたりすることがあります。
交通事故の被害者にとって、例え少しでも自分に非があるとされるのは納得いかないことが多いと思います。
4 個人的に大事に思っていることを貶された
損害賠償額や事故態様に関する話の不満ではなく、保険会社の対応自体に対する不満です。大人しい被害者に対して高圧的に接したりすることで、被害者にとって個人的に思い入れがある事柄について、貶めるような発言をする場合があります。保険会社の担当者がその一言さえ言わなければ、示談でまとまっていただろうというようなケースになります。
例えば、当事務所が扱った案件でも、高校生の部活への支障について、たかが部活というような趣旨の発言をして、揉めた事案がありました。
5 弁護士対応にされ、調停や訴訟をされた
何故か保険会社の担当者と連絡がとれなくなり、保険会社側の弁護士が出てきたりすることがあります。また、調停を申し立てられたり、債務不存在(保険会社が支払うべきお金はない)として訴訟を提起したりすることがあります。このような状態になると、もはや交通事故の被害者本人での対応は無理です。
6 保険会社の対応が悪い場合に責任を問えるか
基本的に保険会社の対応が悪かったとしても、不法行為等で責任追及を行うのは難しいでしょう。
(1)大阪地裁22年3月8日判決(交民43巻2号306頁)
大阪地裁平成22年3月8日判決は、交通事故で被害者が肺挫傷、肺血気胸、第6胸椎骨折による胸髄損傷、神経因性膀胱等の傷害を負った事案です。保険会社の対応の遅さが慰謝料の増額事由になるか等が争われましたが、上記大阪地裁判決は、慰謝料増額としませんでした。
また、保険会社の担当者の言動についても、保険会社の使用者責任を否定しました。
(2)東京地裁平成22年9月27日判決(自保ジャーナル 1838号61頁)
東京地裁平成22年9月27日判決は、交通事故の被害者が、加害者加入の保険会社に対し、交通事故の処理をめぐる原告への対応が無責任極まりなかったなどとして、不法行為(使用者責任)に基づき慰謝料50万円を請求した事案です。
上記東京地裁判決は、交通事故をめぐる被告保険会社側の原告に対する対応に、不法行為と評価すべき言動があったと認めることはできないとして、慰謝料請求を棄却しました。
保険会社の対応に納得できないような場合には、通常の場合、交通事故の被害者自らが解決するのは困難です。そのような場合には、専門家である弁護士に一度相談されることをおススメします。
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②加害者側(保険会社)の弁護士から調停を申し立てられた場合(交通事故の場合の調停)
(弁護士中村友彦)