交通事故にあった場合、通常、加害者が加入している保険会社が被害者の治療費を病院に支払うなどし、最終的な損害賠償についても示談交渉を行うケースが多いです。
しかし、加害者が加入している保険会社の担当者と揉めたりした場合などには、保険会社と関係のある弁護士が登場して、保険会社の担当者に代わり示談交渉を行います。
この加害者側(保険会社)の弁護士は、示談交渉がスムーズに進まないとなった場合に、交通事故の被害者に対して取ってくる手段として裁判所を利用する手続きがあります。その第一の手段が、交通事故の被害者を相手方として調停を申し立てるというものです。交通事故の被害者は、やはり素人ですから、裁判所の手続きが分からず、当事務所にご相談に来られることが多いです。
1 民事調停(交通調停)
調停とは、話し合いの手続きです。示談交渉と異なるのは、裁判所という第三者の機関を使用することです。調停では、調停委員という仲介役のような者が2人いて、交通事故の被害者及び加害者の双方から事情を聴きます。民事調停のうち、交通事故の人身事故事件に関するものを「交通調停」とされます。
(1)どこの裁判所でされるか
調停がどこの裁判所に行われるかについては、民事調停法に定められており、人身事故の場合は、調停の相手方の住所地等の他、損害賠償を請求する者の住所地等を管轄する簡易裁判所です。大阪市にお住まいなら、大阪簡易裁判所で申し立てられます。
(2)調停がまとまらない場合はどうなるか
調停がまとまらなければ、「不成立」とされ、調停は終了します。調停はあくまで話し合いですから、互いに譲歩できなければまとまりません。調停後は、加害者側の弁護士の判断次第ですが、訴訟手続きがとられることがあります。
2 調停が申し立てられるケース
(1) 治療をずっと続けているような場合
保険会社が治療費を交通事故当初は支払っていてくれても、3ヶ月や6ヶ月を経過すれば、治療費の支払いを打ち切ってきます。治療費の支払いを打ち切られたとしても、交通事故の被害者としては、治療をやめる必要はないわけですから、健康保険を使用してずっと治療を続けることは可能です。
そのようなケースでは、治療期間が長くなると、示談交渉を行いたい加害者側の弁護士から調停を申し立てられることが多いです。このような場合、被害者としては、裁判所という一般の人にはなじみのない場所に呼び出され、加害者側の弁護士の要求を飲まされ、結果的に十分な治療ができず、適切な賠償を受けられない事態になりかねません。調停委員が、調停にはいますが、彼らはあくまでも第三者の立場であり、交通事故の被害者の味方ではありません。
(2) 損害について揉めたようなケース
損害項目や額について揉め、その揉め方も通常よりも大きいような場合に、示談交渉ができないとして、調停を申し立てられます。調停でもまとまらないとなれば、加害者側の弁護士は訴訟を提起してきます。
3 調停が成立した場合
調停が成立すると調書が作られ、その効果は裁判の判決の効果と同じです。大概の場合、調停で決めた以外の債権債務はないことの確認の条項が作られたりしますから、専門家に相談することなく安易に調停を成立させると、後日、他の交通事故の損害(後遺障害慰謝料等)を請求できず、後悔することになりかねません。
加害者側(保険会社)の弁護士から調停を申し立てられた場合には、直ぐに専門家である弁護士に相談すべきです。交通事故の被害者に弁護士がつけば、加害者側の代理人としても、将来、被害者側の弁護士から訴訟等の何らかの手続きが取られることが見込まれるため、事件処理の見通しが立ちますから、調停を取り下げたりといった対応がされることが大半です。調停を申し立てられたことから、焦って治療をやめたり、後遺障害の認定手続きをとらないといったことになれば、適切な賠償を受けられないことになってしまいます。(弁護士中村友彦)
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