交通事故で問題となる後縦靭帯骨化症

   交通事故で傷害を負い、後遺障害が残存するなどした場合に被害者が加害者に対して請求する金額が制限されることがあり、そのような制限の一つに素因減額があります。素因減額とは、交通事故の被害者に何らかの負の素因があるような場合に、損害の公平な分担という不法行為法の趣旨に照らして、損害額を減額するものです。交通事故の損害賠償の争いでは、しばしば争点になり、素因減額が問題となるものの一つに後縦靭帯骨化症があります。

1 後縦靭帯

   後縦靭帯とは脊椎の後ろ側を縦に走り、骨同士をつないでいる組織であり、これにより骨同士が外れないようになっています。脊椎を安定化させたり、脊椎の過度な屈曲を制限したりする機能があります。

2 後縦靭帯骨化症

   後縦靭帯骨化症(OPLL:ossification of posterior longitudinal ligament)とは、脊椎椎体の後面を連結する後縦靭帯が厚くなり骨化してしまう病気です。骨化により、脊柱管狭窄となり、脊髄や神経根を圧迫し障害を起こします。頸椎部に多いですが、胸椎部にも生じることがあります。無症状の状態であっても、交通事故などの外傷を契機に発現したりします。

  後縦靭帯骨化自体は、XPやCTでも確認できますが、骨化と脊髄の関係、骨化による脊髄圧迫の程度を知るにはMRIが有用です。

3 最高裁平成8年10月29日判決(交民29巻5号1272頁)

  素因減額について判断したことで有名な最高裁平成8年10月29日判決は、交通事故の被害者が頸椎後縦靭帯骨化症を有していた事案でした。

(1)素因減額を否定した原審判決

  原審である大阪高裁平成5年5月27日判決(交民29巻5号1291頁)は、交通事故の被害者が事故前から頸椎後縦靱帯骨化症に罹患していたことが治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与していることは明白であるが、事故前には頸椎後縦靱帯骨化症に伴う症状は何ら発現しておらず健康な日々を送っていたこと、頸椎後縦靱帯骨化症は、発症の原因もわからない難病の一種であるが、近年、我が国においては決してまれではない疾患であり、被害者には罹患するについて何ら責められるべき点はないこと、交通事故で頸部に加わった衝撃は決して軽いものではなく、素因がなくとも、相当程度の傷害を与えていた可能性が高いと推測されること、腰痛症や老化からくる腰椎や頸椎の変性等何らかの損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者は多数存在していること等にかんがみると、交通事故の被害者が、頸椎後縦靱帯骨化症の素因を有していたため拡大した損害について、これを加害者側に負担させても、公平の理念に照らして不当であるとはいえないと判断し、頸椎後縦靱帯骨化症を損害賠償額の算定に当たり斟酌すべきでないとしました。

(2)原審を否定した最高裁平成8年10月29日判決

 最高裁平成8年10月29日判決は、「加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたかどうか、疾患が難病であるかどうか、疾患に罹患するにつき被害者の責めに帰すべき事由があるかどうか、加害行為により被害者が被った衝撃の強弱、損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者の多寡等の事情によって左右されるものではないというべきである」として大阪高裁判決と全く異なることを述べました。

 そのうえで、「被上告人の本件疾患は頸椎後縦靱帯骨化症であるが、本件において被上告人の罹患していた疾患が被上告人の治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与していることが明白であるというのであるから、たとい本件交通事故前に右疾患に伴う症状が発現しておらず、右疾患が難病であり、右疾患に罹患するにつき被上告人の責めに帰すべき事由がなく、本件交通事故により被上告人が被った衝撃の程度が強く、損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者が多いとしても、これらの事実により直ちに上告人らに損害の全部を賠償させるのが公平を失するときに当たらないとはいえず、損害の額を定めるに当たり右疾患を斟酌すべきものではないということはできない。」としました。

(3)差戻後の大阪高裁判決

 最高裁平成8年10月29日判決は、原審である大阪高裁平成5年5月27日判決を破棄して、大阪高裁に差し戻しました。差戻後の大阪高裁平成9年4月30日判決(交民30巻2号378頁)は、素因減額を3割と認定し、交通事故の被害者の損害を減額しました。

4 後縦靭帯骨化症が問題となった裁判例

(1)大阪地裁平成13年10月17日判決

 大阪地裁平成13年10月17日判決は、交通事故で被害者が中心性脊髄損傷を負い、歩行障害等の後遺障害が残存し、頸椎後縦靱帯骨化症の既存障害が問題となった事案です。

 上記大阪地裁判決は、頸椎後縦靭帯骨化症は、原告の現場での作業に大きな支障を及ぼすものではなかったとは言え、現に症状の発現がみられていること、脊柱管の狭窄率は50パーセントを超えるもので、脊髄を相当圧迫する程度であり、それほど重くない外傷によっても大きな神経症状を引き起こす可能性が非常に高い状態にあったこと、本件事故の態様、後遺障害の程度等の諸事情によれば、後縦靭帯骨化症が後遺障害の程度等の損害拡大に相当の寄与をしているというべきであるとして、素因減額を5割としました。

(2)大阪地裁平成24年9月19日判決(交民45巻5号1164頁)

 大阪地裁平成24年9月19日判決は、交通事故を契機として経時的に頚椎後縦靭帯骨化症による脊髄症状を発症して後遺障害が残存した事案です。

 上記大阪地裁判決は、もともと後縦靭帯骨化症(ないし後縦靭帯骨化)の素因があったこと、それは、単なる加齢変化として一般的にみられるものではなく、難治性の特定疾患とされているものであり、素因減額の対象となるものというべきであること、事故態様は、到底重大なものとはいえない軽微なもので、後縦靭帯骨化症の素因がなければせいぜい頚椎捻挫等を受傷するに止まる程度のものといえること、後縦靭帯骨化症の程度は、事故から約8ヶ月後の時点で、骨化の厚さ7mm、有効脊柱管前後径7mm、骨化占拠率50%に至っていたもので、もともと後縦靭帯骨化症による脊髄症状を発症しやすい状態にあり、脊髄症状を発症した場合には手術によっても十分な改善を得られない可能性がある状態にあったといえること、他方、事故以前から後縦靭帯骨化症による症状を発症していたとは認められないことや、後縦靭帯骨化症であっても無症状のことも多いこと、骨化は緩除にしか大きくならないこと、後縦靭帯骨化症の自然的経過や労務負荷により、本件事故がなくとも、数年内には後縦靭帯骨化症による脊髄症状を発症する可能性が高い状況にあったとまではいえないことなどを考慮して、素因減額を5割としました。

(弁護士中村友彦)

 

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