交通事故で負傷するのは、首、腰や足の部位が多いですが、自転車やバイクなどの場合には、胸や肋骨を骨折したりすることがあります。また、車の場合でも、交通事故の衝撃で胸をハンドルで打つことで負傷することがあります。
胸を打つなどして、骨折した場合には、ケースによって骨が変形するなどして、後遺障害が問題となる場合があります。
1 胸骨
肋骨と接しており、胸骨柄、胸骨体、剣状突起から構成されます。胸部の前部の正中にある細長い骨です。肋骨とともに胸郭を構成し、心臓等の内臓を保護しています。肋骨と鎖骨と同様に体幹骨とされます。
2 自賠責後遺障害等級12級5号
胸骨の変形については、自賠責後遺障害等級表には、「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」と規定があり、後遺障害12級5号とされます。
(1)著しい変形
変形が残存したとしても、程度によっては自賠責後遺障害12級5号には該当しません。裸になったときに、変形が明らかに分かる程度を必要とします。その変形が、レントゲン写真等ではじめて認識できる程度では該当しません。
(2)争点
後遺障害の残存は、基本的に明らかでしょうから、胸骨の変形の後遺障害に関する損害の争いは、労働能力喪失率などが主になります。胸骨が変形しているだけでなく、変形に伴う痛みなどの症状を具体的に主張していかなければなりません。
(3)変形の程度が著しい変形とならない場合
自賠責後遺障害12級5号に該当しなくても、痛みなどの神経症状が残存しておれば、自賠責後遺障害等級第12級13号にいう「局部に頑固な神経症状を残すもの」や後遺障害14級9号にいう「局部に神経症状を残すもの」とされる可能性はあります。
3 胸骨変形に関する裁判例
(1)大阪地裁平成3年5月21日判決(交民24巻3号585頁)
大阪地裁平成3年5月21日判決は、頭部外傷Ⅰ型、右後頭部挫滅創、胸骨骨折、縦隔内出血、両側血胸、左第一指挫創、左手打撲、頭部・胸部・腹部挫傷、頸椎捻挫の傷害を負い、胸骨変形12級5号と脊柱変形11級7号の併合10級の後遺障害が残存した事案です。胸骨の変形ではなく、変形癒合したことで痛みが生じており、それが将来改善する見込みがあまりないうえに、かえって悪化する可能性があるとして、自賠責と同一の労働能力喪失率を認定し、就労可能期間も67歳までの27年間を認めました。
交通事故で、胸骨の変形が残ってしまったような場合には、自賠責に後遺障害の申請をする際、3DCTなどで変形部を強調している画像を添付するのが無難です。胸骨の変形が後遺障害12級5号に該当しなくても、神経症状の他覚的所見と扱われる可能性があります。胸骨の変形は、労働能力喪失率などが争いになりやすいですから、専門家である弁護士に相談してみることをお勧めします。(弁護士中村友彦)
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②交通事故で肋骨が変形してしまった場合(肋骨変形の後遺障害)