交通事故により被害者が死亡した場合、生きていれば得られたであろう年金について、逸失利益として交通事故による損害となることは争いがありません。問題になるのは、年金が逸失利益となることを前提として、その生活費控除割合がどうなるかであり、年金収入だけでなく、稼働収入もある場合には、損害算定方法は異なるものになります。
1 損害算定方法
大きく分けて2つの方法があります。
① 稼働収入がある期間については、稼働収入による逸失利益算定の場合の生活費控除率による算定をし、その後の年金収入だけの期間はより高率の生活費控除を行う方法
② 稼働収入の逸失利益と年金逸失利益を分離して、年金逸失利益については稼働逸失利益より高い生活費控除率で算定する方法
2 生活費控除割合についての裁判例
(1) 大阪地裁平成17年2月14日判決
大阪地裁平成17年2月14日判決では、就労可能である67歳までの16年間は、2人暮らしである等の諸事情を考慮して40%としたうえで、就労可能年齢の上限とされる67歳以降は、生活費割合が相当に増加するのが通常であると考えられるから、同年齢以降の生活費控除の割合は60%とするのが相当であるとしました。損害算定方法としては、上記①の方法に当たります。
(2) 東京地裁平成18年5月10日判決(交民39巻3号631頁)
東京地裁平成18年5月10日判決では、交通事故に遭わなければ、定年退職後も67歳まで就労することができたというべきであり、交通事故と相当因果関係のある定年後の稼働収入の逸失利益を年齢別平均賃金で計算し、定年前及び定年後の生活費控除割合を40パーセントで計算をしました。そして、年金については別途逸失利益を計算し、生活費控除割合について60パーセントで計算を行いました。損害算定方法としては、上記②の方法に当たります。(弁護士中村友彦)