交通事故により被害者が死亡した場合、年金が逸失利益と言えるかについては、国民年金、厚生年金等の老齢年金、障害年金等、被害者が保険料を拠出しており、家族のための生活保障的な性質をもつものについては認められています。かつては争われましたが、障害基礎年金(最判平成11年10月22日民集53巻7号1211頁)、退職年金(最判平成5年3月24日民集47巻4号3039頁)、老齢年金(最判平成5年9月21日判タ832号70頁)など、最高裁判決が出て、交通事故による逸失利益として損害となることに争いはありません。
1 計算方法
年金額×(1-生活費控除率)×平均余命までの年数に対応するライプニッツ係数
2 生活費控除割合
生活費控除率についてがよく争いになります。稼働収入の逸失利益と同程度の控除割合が認められた裁判例もありますが、年金が唯一の収入となるものについては、比較的高い控除割合を認めるものが多いです。年金はほとんどが生活費に使用されることが多いので、通常の控除率よりも高く控除すべきと考えられるからです。
3 生活費控除割合に関する裁判例(交通事故の被害者が無職のケース)
大阪地裁平成17年9月29日判決(交民38巻5号1341頁)では、交通事故により死亡した被害者(85歳の男性で年金受給者、交通事故時無職)につき、老齢年金及び普通恩給相当額を損害と認め、交通事故当時老齢年金及び恩給で生活費をまかなっていたことから、生活費控除率を60パーセント、平均余命を約6年として、逸失利益が算定しました。(弁護士中村友彦)