交通事故は、基本的には前方をよく見ていなかったといった不注意や、ハンドル操作のミスといった過失により生じるものです。しかし、中には、故意で交通事故を起こすような場合もありえます。そのような故意で起きた交通事故の場合にも、保険が無制限に適用されると、公平性、公序良俗、保険政策上等の観点から不都合ですので、保険者が填補責任を負わないとして、故意免責が定められています。保険法17条においても、賠償責任保険について、故意免責が規定されています。
ただし、自賠責保険の場合には、交通事故の被害者を保護するという目的から、任意保険とは異なる定めがされています。
1 被害者請求は可能
加害者が損害を填補し、それを自賠責保険に請求しても、故意免責により支払われることはありません。自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」)14条では、「保険会社は、第82条の3に規定する場合を除き、保険契約者又は被保険者の悪意によって生じた損害についてのみ、てん補の責めを免れる。」と定めています。
しかし、被害者請求の場合には、被害者請求を認めないと交通事故の被害者の保護という自賠法の目的が達成できませんので、加害者が故意の場合であっても、被害者請求は認められています(自賠法17条の仮渡金請求も同様です)。
被害者に対して保険金を支払った保険会社は、政府の保障事業に対して補償を求めることができ、政府は加害者に対して求償を行います。自賠法76条2項では、「政府は、保険契約者若しくは被保険者又は共済契約者若しくは被共済者の悪意によって損害が生じた場合において、保険会社又は組合が第十六条第一項(第二十三条の三第一項において準用する場合を含む。)の規定により被害者に対して損害賠償額の支払をしたときは、その支払金額の限度において、被害者が保険契約者若しくは被保険者又は共済契約者若しくは被共済者に対して有する権利を取得する。」と規定しています。
2 自賠法14条の「悪意」
自賠法14条の「悪意」とは、故意のことです。ここでいう故意は、確定的故意のことであり、未必の故意(自動車で人を轢いてしまうかもしれないが、そうなってもかまわないという認識)は含まれないとされています。
なお、任意保険の対人・対物の賠償責任保険は、故意免責が定められていますが、事案によっては、被保険者が複数存在することがありますので、保険の内容を確認する必要があります。記名被保険者以外が故意により交通事故を起こし、記名被保険者に保有者責任により自賠法3条に責任を負う場合等では、故意免責とされていないと思います。
(弁護士中村友彦)