交通事故で小腸に後遺障害が残存した場合

 交通事故では、様々な傷害を負う可能性がありますが、骨折がなくても体内の臓器が傷害を受けることがあります。その中のひとつに、小腸が損傷を負うというものがあります。自動車に乗っている際、シートベルトを付ける場合、衝突の衝撃によりシートベルトで圧迫され、小腸が傷つくということがあります。これは、追突事故のような後方からの事故の場合でも、シートベルトで圧迫され、小腸が損傷を受け緊急で手術を要することがあります。事故後の手術等の治療が上手くいけば、後遺障害が残らないこともありますが、治療が上手くいかず後遺障害として残存した場合には、自賠責保険の後遺障害認定の対象となります。

1 小腸

 小腸は、消化器官の一種であり、消化と吸収を行います。小腸は、体の中で一番長い臓器であり、その長さは約6メートルになります。

2 後遺障害の内容

 小腸の状態により、自賠責保険の後遺障害等級は以下のようになります。

(1)小腸を大量に切断したもの

  小腸の一部である回腸と空腸の長さにより後遺障害の等級が決まります。

等級

内容

後遺障害9級

長さが100cm以下

後遺障害11級

長さが100cmを超え、300cm未満となったもので、消化吸収障害が存在

長さが300cm以上であっても、小腸切除に伴う消化吸収障害が残存しているものととらえられる場合には、胸腹部臓器の機能に障害を残すものとして、13級11号に認定されることはあります。

(2)人工肛門を造設したもの

等級

内容

後遺障害5級

小腸内容が漏出することによりストマ(排泄口)周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パウチ(便をいれる袋)等の装着ができないもの

後遺障害7級

人工肛門を造設

 

(3)小腸皮膚瘻を残すもの

 小腸皮膚瘻は、小腸の内容が皮膚に開口した瘻孔から出てくる病態です。瘻孔から小腸内容が出ることで、消化吸収障害等を生じることから後遺障害の認定対象となります。

等級

内容

後遺障害5級

瘻孔から小腸の内容の全部又は大部分が漏出するもので、パウチ等による維持管理が困難なもの(パウチ等が装着できない)

後遺障害7級

瘻孔から小腸の内容の全部又は大部分が漏出するもの

後遺障害9級

瘻孔から漏出する小腸の内容がおおむね100ml/日以上のもの

後遺障害11級

瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸の内容が漏出する程度のもの

 

(4)小腸の狭窄を残すもの

 狭窄とは、1ヶ月に1回程度、腹痛、腹部膨満感、嘔気、嘔吐等の症状が認められ、単純X線画像において、ケルリングひだ像が認められるものです。ケルリングひだは、小腸の内腔の輪状の粘膜のひだのことであり、通常、単純X線では、ケルリングひだを確認することはできませんが、狭窄があると確認できるようになります。

等級

内容

後遺障害11級

狭窄の状態

 

3 小腸に関する裁判例 

(1)大阪地方裁判所平成22年5月12日判決(交民43巻3号573頁)

 大阪地方裁判所平成22年5月12日判決は、交通事故により、腹部多発性交通外傷、腸壁創し開等の傷害を負い、労災保険では人口肛門の設置について後遺障害7級5号が認定されたものの、自賠責保険では後遺障害9級11号に認定された事案であり、後遺障害の等級などが争われました。

 上記大阪地裁は、多量の小腸液が人工肛門より排出するため、頻回のパウチ内小腸液の処理を必要としており、脱水傾向になりやすいため多量の水分摂取を必要としている等々の事情を考慮し、後遺障害7級5号と認定しました。

 また、上記大阪地裁は、人工肛門を設置したことにより、毎年支出を要する器具購入費について、「原告には、人工肛門のケア用品としてパウチ、清浄剤、不織布テープ、皮膚保護剤、剥離剤、ガーゼ、装具などが必要であり、毎年143,670円の費用負担が発生することが認められ、本件事故時の原告の年齢は35歳であるところ、第20回生命表によれば平均余命は約44年でありこれに相当するライプニッツ係数は17.6627であるから、中間利息を控除する。」として、253万7600円を認定しました。

(2)名古屋地方裁判所平成29年1月25日判決(平成27年(わ)5482号)

 名古屋地方裁判所平成29年1月25日判決は、交通事故により外傷性腹腔内出血、術後下痢症、回腸部分切除後とされる傷害を負った事案です。自賠責保険では、外傷性腹腔内出血後の小腸の障害について、小腸切除に伴う消化吸収障害が残存しているものととらえられるとし、胸腹部臓器の機能に障害を残すものとして、13級11号を認定しています。

 交通事故前と収入に違いはありませんでしたが、上記名古屋地裁は「通常の就労に支障が生じるほどの消化吸収障害があるところ、生活習慣に気を配りあるいは転職をするといった原告X1自身の努力や、現在の職場における周囲の理解によって、就労を継続していると認められる。」として、後遺障害13級11号とおりの労働能力喪失率9%を認めています。

  

(弁護士中村友彦)

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