交通事故にあって負傷した場合、通常、病院で治療を行いますが、治療費は保険会社から支払ってくれることが多いでしょう。保険会社が治療費を支払ってくれているので、治療費の金額を気にすることはないかもしれませんが、過失がある場合や過失がない場合でも治療費が高額になることが見込まれる場合には、健康保険に切り替えて、健康保険の負窓口負担分を保険会社に支払ってもらった方が有利になります。交通事故の加害者が任意保険に加入していない場合には、第三者行為届を提出して、健康保険を使用して治療することが大半でしょう。健康保険を使用した場合、被害者は知らないことが多いですが、加害者に対して、健康保険組合から求償請求されることがあります。
1 国民健康保険法64条1項
国民健康保険法64条1項では、「保険者は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額(当該保険給付が療養の給付であるときは、当該療養の給付に要する費用の額から当該療養の給付に関し被保険者が負担しなければならない一部負担金に相当する額を控除した額とする。次条第1項において同じ。)の限度において、被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。」と定めており、国民健康保険が病院に支払った治療費を、交通事故の加害者に対して求償することができます。
これは、病気と異なり、本来、交通事故の加害者が損害賠償義務により治療費を負担しなければならないにもかかわらず、国民健康保険を使用したことで、加害者が負担を免れるのは不公平だからです。
2 健康保険法57条
健康保険法57条は、「保険者は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額(当該保険給付が療養の給付であるときは、当該療養の給付に要する費用の額から当該療養の給付に関し被保険者が負担しなければならない一部負担金に相当する額を控除した額。次条第一項において同じ。)の限度において、保険給付を受ける権利を有する者(当該給付事由が被保険者の被扶養者について生じた場合には、当該被扶養者を含む。次項において同じ。)が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。」としており、国民健康保険と同様に、国民健康保険が病院に支払った治療費を、交通事故の加害者に対して求償することができます。
なお、健康保険ではないですが、労災保険の場合にも、労働者災害補償保険法により同様の規定がおかれています。
3 交通事故の加害者が健康保険から求償された場合
任意保険に入っている場合は任意保険会社が対応してくれますし、自賠責保険が適用となる自動車事故の場合には健康保険から自賠責保険に求償されますので、交通事故の加害者自身が健康保険から直接求償を受けることは少ないと思います。しかし、加害者が任意保険に未加入であったり、自賠責保険から健康保険が回収できなかった場合には、加害者に対して求償請求がなされることがあります。
その場合、交通事故の加害者としては、過失割合や相当な治療期間をよく検討して、求償に対して応じるか決めないといけません。
(弁護士中村友彦)