交通事故のバイク事故などで、足に後遺障害が残るなどのケースが多いですが、そのうち、足の指がなくなってしまったような場合も後遺障害として認められます。足の指が交通事故でなくなったことは、足が欠けたりなくなってしまったりした場合と同様に、基本的に画像等から明らかですから、後遺障害の有無が争いになることは少ないですが、労働能力喪失率などの後遺障害逸失利益の算定にあたって争われることがあります。
1 自賠責後遺障害等級一覧
交通事故の後遺障害についての自賠責の認定基準は以下のとおりです。
後遺障害5級8号 |
両足の指がすべてなくなった |
後遺障害8級10号 |
片方の足の指が全部なくなった |
後遺障害9級14号 |
片方の足のうち、親指とそれ以外の指1本がなくなった |
後遺障害10級9号 |
片方の足のうち、親指かそれ以外の指4本がなくなった |
後遺障害12級11号 |
①片方の足のうち、指し指がなくなった or ②片方の足のうち、指し指とそれ以外(親指も除く)の指1本がなくなった or ③片方の足のうち、中指、薬指と小指の3本がなくなった
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後遺障害13級9号 |
片方の足のうち、中指、薬指、小指のどれかがなくなった(2本なくなった場合を含む) |
2 「足の指がなくなった」とは
「足の指がなくなった」というのは、足指の間接である中足指節関節(MTP)からなくなった場合を指します。
(1)中足指節関節(MTP)からなくなった
簡単に言えば、足の指の付け根からなくなったということです。
(2)第1指等
上記一覧では分かりやすいように修正しましたが、自賠責の等級表には、第1の足指などと書かれています。一般的な言い方に直すと以下のようになります。
①第1の指⇒親指
②第2の指⇒指し指
③第3の指⇒中指
④第4の指⇒薬指
⑤第5の指⇒小指
(3)足の付け根ではなく、もっと先でなくなっている場合
交通事故で足の付け根の関節ではなく、もっと指先に近い関節からなくなっている場合、足の指の欠損障害としての後遺障害には該当しません。しかし、何の評価もされないかというとそうではなく、足指の「用を廃した」として後遺障害の対象になります。
3 左右両方の足の指がなくなった場合
交通事故で左右両方の足がなくなった場合は、後遺障害等級5級8号ですが、それ以外の場合はどうなるのでしょうか。例えば、左の足の指は全部なくなったが、右の足の指は小指1本だけなくなったようなケースです。
(1)併合
後遺障害が複数残存した場合に、それらの後遺障害が互いに系列が異なるのであれば、原則、等級を1級から3級を繰り上げることを「併合」といいます(但し、例外もあります)。
①13級以上の後遺障害が2つある場合
一番重い等級を1級繰り上げます。例えば、12級の後遺障害と13級の後遺障害が残存しておれば、併合11級になります。
②8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合
一番重い等級を2級繰り上げます。例えば、8級の後遺障害と7級の後遺障害が残存しておれば、併合5級になります。
③5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合
一番重い等級を3等級繰り上げます。例えば、8級の後遺障害と7級の後遺障害が残存しておれば、併合5級になります。
④注意
併合ルールは、後遺障害が複数あれば、必ず適用があるというものではありません。障害の部位等により異なります。なお、後遺障害14級は複数あっても併合14級のままです。
(2)具体例
交通事故で、左の足の指は全部なくなったが、右の足の指は小指1本だけなくなったようなケースでは、左足は後遺障害等級8級10号であり、右足は後遺障害13級9号ですから、併合されて後遺障害7級になることになります。
4 片方の足のうち、指し指を含めて3本の指がなくなった場合
片方の足のうち、指し指を含めて3本(中指、薬指、小指から2本)なくなった場合については、自賠責後遺障害等級表にはのっていません。この場合の後遺障害の評価はどうなるのでしょうか。
(1)準用
後遺障害等級表に該当する障害がない場合に、他の障害の等級を準用したり、併合の方法で等級を定めると後遺障害の序列を乱すような場合に直近上位や下位の等級を認定することです。
(2)準用第11級
片方の足のうち、指し指を含めて3本(中指、薬指、小指から2本)なくなった場合については、片方の足のうち、指し指とそれ以外(親指も除く)の指1本がなくなったケースである後遺障害第12級10号より障害の程度は重いです。他方で、片方の足のうち、親指かそれ以外の指4本がなくなった後遺障害10級8号には及びません。そこで、後遺障害の評価としては、準用第11級となります。
5 労働能力喪失についての争い
足の指がなくなっても、労働能力喪失率などについて争いになることがあります
(1)大阪地裁平成18年6月14日判決(交民39巻3号764頁)
大阪地裁平成18年6月14日判決は、交通事故で、右足の中指と薬指がなくなってしまい、後遺障害13級が認定された事案ですが、原告は労働能力喪失率20パーセントの主張に対し、被告は5パーセントと主張し労働能力喪失率が争われました。
上記大阪地裁判決は、自賠責と同様に後遺障害13級を認定し、労働能力喪失率を9パーセントと認定しました。
但し、上記大阪地裁の事案で、被告は5パーセントと主張していますが、これは足の指の欠損障害ではなく、足の指の用を廃したものであり後遺障害14級という主張に基づくもので、被告は後遺障害13級を前提としての争い方をしていません。なお、足の欠損については、中足指節関節からなくなっているのは明らかであるとして、大阪地裁は被告の主張を排斥しました。
(弁護士中村友彦)