死亡した幼児の養育費は、交通事故による損害から差し引かれるか

   交通事故によって死亡した場合、損害賠償の計算にあたっては、支出することがなかった生活費を控除したり、将来得られるはずだった逸失利益を現在の時点で受け取ることから中間利息を控除したりします。交通事故で死亡した被害者が幼児の場合、交通事故がなければ、かかったであろう将来の養育費についても、損害から控除されるべきかどうかという問題があります。

1 最高裁判決・・・損害から控除を否定

  最高裁昭和53年10月20日判決(民集32巻7号1500頁)では、以下のように述べ、死亡した幼児につき将来の養育費の支払いを免れた部分について、死亡逸失利益から控除しないと判断しました。

  「交通事故により死亡した幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなった場合においても、右養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がなく、したがって、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたりその将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではないと解するのが相当である」

 さらに補足意見では、以下のような理由を付け足しています。

①幼児本人がその養育費を負担するのは、父母その他の扶養義務者がおらず、しかも幼児本人が資産を有するという極めて稀な場合であって、このような稀有な事象を前提として立論するのは、妥当でないこと。

②稼働能力の評価は、稼働能力を取得するための必要経費を要因としなければならないものではないこと。控除するのであれば、成人が交通事故で亡くなった場合と均衡がとれないこと。

③幼児の養育費は、一般に殆んど父母その他の者が負担するのであり、その場合、死亡した幼児は稼働能力を取得するまでに父母その他の者から取得すべき養育費相当額を喪失したことになるから、むしろ喪失した養育費相当額も幼児の損害額として計上すべきものとさえ考えられること

④幼児の交通事故による損害賠償額の算定として逸失利益から養育費を控除するという考え方は、加害者と被害者との損害負担の衡平を図るための便法にすぎない面のあることを否定しえないと思われるのであるが、保険制度の発達等社会経済の成長をみるにいたった今日においては、幼児の養育費を控除することによって損害賠償額の多額化を抑制することは、必ずしも右の衡平を得るゆえんではないといわなければならないこと

2 上記最高裁判決の反対意見・・・控除すべき

  上記最高裁判決の反対意見では、幼児が稼働能力を取得するまでに要すべき生活費、普通教育を受けるための費用等の養育費についても、これを稼働期間中の生活費に準ずる必要経費として幼児の将来の得べかりし収入額から控除することを要すると解するのが相当であるとしています。

  理由は以下の通りです。

①幼児は、死亡当時においては稼働能力をもたない未完成の状態にあるにもかかわらず、既に稼働能力を有する成人が死亡した場合と同様に将来の得べかりし収入額から稼働期間中の生活費等の必要経費のみを控除した額をもつてその財産上の損害額とし、幼児が稼働能力を取得するためにはそれまでの間の養育費を必要とするはずであったことをまったく考慮しないのは、成人が死亡した場合との均衡を失することとなり、相当ではないため

②成人死亡の場合と不均衡を指摘される点につき一言する。養育費の控除は、幼児の将来得べかりし財産上の損害額を算定するためのものであるから、控除すべき養育費も交通事故後成人に達するまでの間であり、交通事故前の養育費を含まない趣旨であることは当然。したがって、成人が死亡した場合には、養育費を控除する問題は起こる余地がないため(弁護士中村友彦)。

 

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