強制保険である自賠責保険、その上乗せ保険である任意保険(対人賠償保険)もいずれも、保険加入者が交通事故を起こした場合に発生する損害賠償責任を担保する賠償責任保険です。これに対して、人身傷害補償保険は、交通事故が生じた場合に、被害者になることに備えるための保険です。一般的な傷害保険と同様に被害者の過失は問わない一方で、定額保険である一般的な傷害保険と異なり、あくまでも実損填補方式で保険金が支払われます。ただし、実損填補方式とはいえ、そこで使われる基準は、あくまでも任意保険である以上、自賠責保険基準と裁判基準の間に位置するものにとどまります。
1 人身傷害補償保険が適用される対象者
一般的には以下のようになります。
- 記名被保険者
- 記名被保険者の配偶者
- 同居の親族
- 別居の未婚の子
- 上記①~④以外の車の同乗者
2 人身傷害補償保険が適用される対象事故
上記人身傷害補償保険が適用される対象者①から④が、人身傷害補償保険に加入している所有者の車に同乗中に自動車事故に遭遇した場合のみならず、単なる歩行中や他車に搭乗中に自動車事故あった場合も適用されます。自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故、あるいは急激かつ偶然な外来の事故による被保険自動車の運行中に飛来または落下してきた物と衝突、被保険自動車の運行中の火災・爆発、被保険自動車の運行中の落下により身体に傷害を被る交通事故に適用があります。
3 支払われる保険金の額
損害額は保険会社基準で計算されますが、その損害から自賠責保険や他の任意保険で支払われた保険金等を控除した金額が、人身傷害補償保険の保険金として支払われます。
4 人身傷害補償保険の保険金と加害者に対する損害賠償請求の関係
過失相殺がある事案で、被害者が人身傷害補償保険の保険金の支払いを受けた後に、加害者に対していくら請求できるのかに争いがあります。人身傷害補償保険の魅力の一つには、過失相殺がされず、被害者の過失の分についても補償されることにあり、保険会社も大体それを売りにしているのです。ですから、まずは、保険金は過失相殺分の損害に充当され、被害者は不足した分を、過失相殺後の加害者の責任の限度で損害賠償できると考えるのが筋だと思われます。
下級審判例の中には、別の考えをとるのもありますが、大半の下級審は、過失相殺分にまず充当する考え方をとっており、最高裁(平成24年2月20日判決)も過失相殺分にまず充当するという考えを示しました。
(弁護士 中村友彦)