交通事故により頭部に重傷を負い、高次脳機能障害が残存するなどした場合、判断能力がなくなってしまうことで、自らの有効な法律行為ができなくことがあります。このような場合、家庭裁判所で所定の手続きを行うことで、交通事故の被害者にかわり、法律行為等を行う人、成年後見人を就けることができます。成年後見人は、法律行為を行いますが、当然対価を要しますので、成年後見人の報酬が必要になってきます。この成年後見人の報酬が、交通事故の損害といえるのか問題になります。
1 成年後見人
成年後見制度は精神上の障害 (知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が十分でない者が不利益を被らないように 家庭裁判所に申立てをして、かわりに法律行為を行う人間を選任する制度です。預貯金などの財産管理、介護・施設への入所にあたって契約などの身上介護を、本人に代わって法的に代理や同意、取消をする権限を与えられた成年後見人等が行います。本人の判断能力の程度によって、後見、保佐、補助に分かれます。
2 成年後見人の報酬
成年後見人の報酬は、管理する財産額によってかわります。成年後見人の職務の内容によっては、付加報酬が加算されることもあります。通常は月額2万円程度ですが、管理財産が5000万円を超える場合には、月額5万円程度になることもあります。成年後見人が職務を行う期間が長ければ、月額が少なくても、総額としては金額がかなり大きくなることがあります。裁判例においては、交通事故により被害者が成年後見人の選任を要した場合には、その後見報酬は将来分においても、交通事故の損害として認められています。
3 裁判例
(1) 東京地方裁判所平成28年4月26日判決(平成26年(ワ)第34581号)
東京地方裁判所平成28年4月26日判決は、交通事故により高次脳機能障害の後遺障害が残り、その程度は神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するものとして自賠法施行令別表第一第1級1号に該当するとされた事案です。成年後見人の報酬が請求されましたが、成年後見人就任から13か月分の自賠責保険の回収等を行ったことによる成年後見報酬83万円、その後余命期間29年について月額2万円として、合計381万0296円(計算式:83万円+2万円×12×(15.1411(29年ライプニッツ係数)-2.7232(3年ライプニッツ係数))を交通事故の損害として認めました。
(2) 大阪地方裁判所平成27年9月4日判決(平成26年(ワ)第9813号)
大阪地方裁判所平成27年9月4日判決は、交通事故で負傷し、頭部外傷による神経系統の機能又は精神の障害について、意識障害により、生命維持に必要な身の回り処理の動作について、常に他人の介護が必要な状況にあるものと認められることから、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するものとして自動車損害賠償保障法施行令別表第1第1級1号に該当するものと判断された事案です。親族が成年後見人となったこともあり、交通事故の損害として認められるか争われました。上記大阪地裁判決は、「成年後見人の基本報酬額は、家庭裁判所が裁量により審判で決定すること,管理財産が5000万円を超える場合の目安となる金額は月額5ないし6万円であることが認められる。」としたうえで、財産の総額が5000万円を超えることが見込まれるとはいえ、他方で、成年後見人の報酬はあくまでも家庭裁判所が裁量により決定するものであることや、後見制度支援信託の利用が想定され、成年後見人自身が財産のすべてを管理するとは考えられないことに照らすと、成年後見人の報酬として将来にわたり6万円を要するとは認められないが、少なくとも月額2万円を要すると認められるとしました。
そして、交通事故の損害となる成年後見報酬として、症状固定時を基準とし中間利息を控除した318万5192円となるとしました〔計算式:2万円×10か月×0.9070+2万円×12か月×(14.3752-1.8594)〕。
なお、加害者側から成年後見人に親族が選任されたので成年後見報酬は認められるべきではないと主張されましたが、親族であっても後見制度支援信託を利用する部分以外の財産については、病院等への支払や家庭裁判所への報告等も含め相当程度の管理業務を担い、また法律上の責任を負うことを考慮すると、成年後見報酬が認められる旨を述べています。
(弁護士中村友彦)