交通事故で負った傷害の治療について、医師の医療行為以外が行われることがあり、それにかかった費用が交通事故による損害と認められるかどうか争いになることがあります。温泉療養費もこのような費用の1つです。
1 温泉療養費が認められる場合
原則として医師による指示を必要とします。医師による指示がない場合でも、治療上有効で必要があり、相当性が認められる範囲で相当因果関係が認められます。
2 温泉療養費に関する裁判例
(1) 医師の指示があった例
東京地裁昭和53年3月16日判決(判時900号79頁)では、交通事故で胸部打撲、右肋骨骨折、右肺損傷、右血胸・気胸、左鎖骨骨折、左肋骨骨折を負った事案ですが、主治医から勤務再開前に温泉にでも行って休養をするように勧められたこともあって治療期間中に塩原温泉等に療養し、その宿泊費及び交通費について一部を損害として認めました。入院との関連も明らかではなく、医師の明確な指示によるものとは言えないので、かかった温泉療養費の60%についてだけ、交通事故の損害として制限しました。
(2) 医師の指示がなかった例
東京地裁平成10年1月20日判決(交民31巻1号10頁)では、医師から温泉療養を指示されたと述べるが、風呂に入って温めるのがよいと言われたにすぎないこと、また、単に患部を温めるのであれば、必ずしもそれが温泉である必要はないというべきであるということや、帰郷の際、温泉入浴を勧められたにとどまり、他にその支出を被告に負担させることを認めるに足りる証拠はないことから、医師の指示を否定したうえで、温泉療養費を交通事故の損害と認めませんでした。
(3) 必要性・有効性があれば認められるとした例
山口地裁平成6年9月22日判決(交民27巻5号1292頁)では、温泉治療費については、医師の指示に基づくなど、必要性・有効性が明らかであれば、交通事故の損害として認めるのか相当であるとしました。但し、相当額の入湯料及び交通費を要したことは推認することができるが、この金額を具体的に認めるに足りる証拠は存しないとしたうえで、慰謝料の斟酌事由とすることとしています。 この判決では、医師の指示に基づくなどとしており、必ずしも医師の指示の寄る場合に限られず、必要性有効性があれば、温泉療養費は交通事故による損害と認めることができることがうかがわれます(弁護士中村友彦)。