交通事故で、手首・肘や肩が骨折・脱臼するなどして、その運動機能に障害が残存する場合があります。例えば、肩が通常の半分くらいまでしか上がらなくなったり、肘が曲げれなくなったりというものです。このような機能障害の場合のうち、関節の安定性が損なわれ、異常な関節の動きが生じている場合、動揺関節として後遺障害になることがあります。
1 動揺関節
動揺関節とは、関節の安定性がなくなり、正常では存在しない異常な関節運動が生じている関節のことをいいます。その原因は神経性、靭帯性や骨性に分けられます。
2 上肢(手首・肘・肩)の後遺障害等級
交通事故で器質的損傷(骨折等)を受け、画像検査で異常が確認できることが必要ですが、上肢(手首・肘・肩)の後遺障害の等級は、以下のようになります。動揺関節が他動的か自動的かは関係ありません。
等級 |
後遺障害の内容 |
後遺障害10級 |
常に硬性補装具を必要とするもの |
後遺障害12級 |
時々硬性補装具を必要とするもの |
後遺障害12級 |
習慣性脱臼 |
(1)硬性補装具
手や肩等の動作的機能の障害が発生したとき、その障害を軽減する目的で装着する補助器具が装具ですが、そのうち硬性材料で製作した装具を硬性補装具といいます。
(2)習慣性脱臼
軽度の外力で、頻繁に脱臼が生じてしまう状態です。
3 裁判例
(1)東京地裁平成15年11月17日判決(平成14年(ワ)14845号事件)
東京地裁平成15年11月17日判決は、交通事故の事案ですが、人身傷害補償保険契約について問題となったもので、動揺関節に関して判断されています。
まず、上記東京地裁判決は、交通事故の被害者の右肘は、靭帯が損傷し、肘関節が安定性を失い、異常な可動性を示すという動揺関節の症状が存するところ、固定装具を購入しておらず、これを常時必要とする程度には至っていないが、2キログラムを超える重量物を持つ場合には固定装具を必要とする場合があること、交通事故当時、電解水生成機械の販売等を営んでおり、約30キログラムの重量のある同機械を自ら運ぶこともあったこと等によれば、右肘の不安定性は、日常生活上顕著な支障を来す程度のものではないが、重量物の運搬等を行うに当たり固定装具を必要とする場合もあるという意味において労働に多少の支障が生じているということができるとしました。
そのうえで、後遺障害等級表12級所定の「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」とは、器質的損傷(本件においては右肘靭帯損傷)の存在を前提とし、他覚的所見が得られていなければならないが、必ずしもレントゲン写真等により視認できなければならないものではなく、徒手検査しか行っていないとの一事をもってその存在が否定されるものではないとしています。
(弁護士中村友彦)