交通事故の態様は様々です。自動車同士の事故が典型的ですが、自転車が絡むもの、バス車内で転倒して怪我を負うものなど、色んなケースが考えられます。当事務所が相談を受けた交通事故の態様は多岐にわたりますが、その中の一つにタクシーに乗車中に交通事故に合い負傷したというのがあります。事故の衝撃が強くてむち打ちになり、後遺障害に苦しむこともあります。
1 警察の手続きはしっかりしましょう
タクシーの単独事故により、車内で乗客が負傷したような場合にも人身事故ですので、実況見分等が原則としてされます。しかし、交通事故の被害者が自ら動かなければ、人身事故扱いになっていないことがあるので、注意が必要です。当事務所が相談を受けた事案でも、任意保険会社及びタクシー会社が警察への届けは行ったので大丈夫だと言っていましたが、実況見分等を行っていないというので警察に確認したところ、人身事故の扱いになっていなかったことがありました(被害者に対する物損事故の扱いにもなっていませんでしたし、そもそも物損は生じていませんでした)。
自賠責保険への請求では、交通事故証明書(人身事故)は、必ずしも必要ではないですが、人身事故扱いにして実況見分等を行わなければ、後日事故態様の争いが生じた場合に困ることになりかねません。警察への手続きはしっかりやりましょう。
2 事故態様により請求相手がかわる
(1)タクシーの単独事故の場合
タクシー会社に対して請求します。交通事故ですから、怪我をした場合には自賠責保険に請求することができます。タクシー会社への請求の法的構成は、不法行為だけでなく、債務不履行責任も考えられるでしょう。
(2)タクシーに過失がない場合
タクシーが信号待ちで停車していたところ、後方から来た車両に衝突されたような場合には、タクシーは無責ですから、後方から衝突してきた車両へ損害賠償請求することになります。タクシーへの自賠責保険へは請求できません。
(3)タクシーに100%の過失がある場合
前方で信号待ちのために停車していた車両に、タクシーが衝突した場合には、前方車両は無責ですから、前方車両へ損害賠償請求はできませんし、前方車両の自賠責保険へも請求できません。タクシー会社(タクシー会社の加入している保険会社)へ請求することになります。
(4)タクシーだけでなく他の車両にも過失がある場合
タクシーにも、他の交通事故を起こした車両に対しても請求することができます。自賠責保険もタクシー会社加入のものと他の車両の加入しているものの両方に請求できます(二重取りできるわけではありません。上限が2倍になるだけです)。
3 裁判例
(1)大阪地裁平成21年6月30日判決(交民 42巻3号856頁)
大阪地裁平成21年6月30日判決は、タクシーに乗車中に、タクシーが信号待ちで停止していた車両に衝突する交通事故に合い、頸髄損傷、脊髄損傷の傷害を負い、第3頸椎レベル以下の知覚・運動・呼吸の完全麻痺という障害等級1級1号の後遺障害を負った事案です。
タクシー会社側は、交通事故の被害者が、事故の際、後部座席で横になっていたことも事故の結果に少なからず影響しているとして、相応の過失相殺を主張しました。
しかし、上記大阪地裁は、被害者は乗客としてタクシーに乗っていたにすぎない上、タクシー運転手に告げた上で後部座席で横になって眠っていただけであるから、特に落ち度があったとまでは評価できないとし、さらに、職業運転手であるにもかかわらず、運転中に後部座席を振り返った結果、事故を発生させたものであるから、その過失の程度は甚だしいと言えるわけで、被害者の上記言動と比べると、敢えて過失相殺しなければ公平を損なうような事情も見当たらないとして過失相殺を否定しました。
(2)大阪地裁平成17年4月27日判決(交民 38巻2号609頁)
大阪地裁平成17年4月27日判決は、高速道路上で自損事故を起こし走行車線と追越車線をまたぐ状態で停止していたタクシーに追越車線を走行してきた加害車両が衝突する交通事故により、タクシーの乗客が死亡したという事案です。
交通事故で亡くなった被害者がタクシーに乗車したままだったことの過失が争われましたが、上記大阪地裁判決は、後続車両が衝突してくるという切迫した状況にはなく、タクシーを危険の少ない場所に移動させる可能性が十分にあったのであるから、車外に待機することを期待できなかった等を考慮して、死亡したタクシーの乗客に過失はないとしました。
(弁護士中村友彦)