交通事故で骨折や脱臼が生じることはよくありますが、その部位は多岐にわたります。そのような交通事故で生じる骨折や脱臼のなかで、歩行者や自転車を運転している者が、自動車に跳ね飛ばされ、地面に打ち付けられて肘部の骨折や脱臼が生じることがあります。肘部の骨折や脱臼は、交通事故の態様が大きいものでなくても生じることがあります。当事務所が扱った案件でも、交通事故の態様は接触程度でしたが、被害者が転倒した際に腕を地面についてしまい、肘関節内を骨折して、治療後も痛みや関節可動域の制限が出てしまい、生活に支障が生じることになってしまったものがありました。
1 肘関節
上腕骨、橈骨や尺骨の3本の骨から構成される複数関節です。上腕骨と橈骨から構成される腕橈関節、上腕骨と尺骨から構成される腕尺関節、橈骨と尺骨から構成される橈尺関節の3つの関節によって機能しています。これらの関節によって、肘の伸展や屈曲等が上手くいきます。
2 後遺障害
肘関節を骨折や脱臼をした場合、骨折の部位や程度、治療経過などによっては肘関節の可動域が制限され(伸展できない・屈曲できない)、後遺障害として残存してしまうことがあります。自賠責保険後遺障害等級の定めは以下のとおりです。
等級 |
内容 |
後遺障害8級6号 |
関節の用を廃した場合 |
後遺障害10級10号 |
関節の機能に著しい障害を残す場合 |
後遺障害12級6号 |
関節の機能に障害を残す場合 |
(1)関節の用を廃した
関節の用を廃した場合とは、以下①~③の場合です。
①関節が強直した場合
②関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態の場合(他動では可動するが、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%程度以下になったもの)
③人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、可動域角度が2分の1に制限されている場合
(2)関節の機能に著しい障害
関節の機能に著しい障害を残す場合とは、以下①②の場合です。
①関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている場合
②人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、可動域角度の制限が2分の1に満たない場合
(3)関節の機能に障害
関節の機能に障害を残す場合とは、関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されている場合です。
3 自賠責後遺障害等級認定を受けるにあたって注意
(1)正確な測定
関節の可動域制限は、後遺障害等級認定を受けるにあたって重要です。後遺障害診断書を作成してもらう場合には、主治医としっかりとコミュニケーションをとって、正確に計測してもらわないといけません。
(2)原因は何かを明確に
単純に可動域が制限されているというだけではいけません。骨折後の癒合不良、異常性骨化など、その制限の原因が何かを明確にしておく必要があります。
4 肘関節の機能障害に関する裁判例
(1)東京地裁平成10年7月29日判決(交民31巻4号1146頁)
東京地裁平成10年7月29日判決は、交通事故により右肘頭部骨折、右肘関節拘縮の傷害を負い、逸失利益が争われた事案です。交通事故の被害者は、10年以上前に別の交通事故に遭って右肘剥離骨折の傷害を負って手術を受け、右肘関節機能障害の後遺障害として自賠責保険から後遺障害12級の認定を既に受けていました。
上記東京地裁判決は、右肘の若干の可動域制限についての逸失利益を認めませんでしたが、10年以上の経過の事実等を考慮して、残存した症状が2回目の事故と相当因果関係があるとして慰謝料で考慮するとしました。
5 関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以上の場合
関節の可動域が自賠責後遺障害12級6号に満たない場合であっても、痛みや痺れといった神経症状が残存しているのであれば、自賠責後遺障害等級14級9号や自賠責後遺障害等級12級13号に該当する可能性があります。
また、上記東京地裁判決のように慰謝料で考慮されることもあります。
(弁護士中村友彦)