交通事故が起きた場合、被害者は加害者に対し、損害賠償請求権を有することになります。通常の場合、任意保険に加害者が加入しておれば、交通事故の被害者は、任意保険会社から、交通事故の損害を填補する金員の交付を受けることになります。 しかし、交通事故の加害者が、借金等が多くあり、示談交渉中に破産してしまった場合に、どのような影響があるのかが問題になります。
1 保険金に対する被害者の先取特権
交通事故では、通常、被害者が任意保険会社から損害の填補を受けますが、あくまで、法律上の原則は、加害者が被害者に対し交通事故の損害賠償金を支払ったうえで、加害者は自分が加入している保険会社に対し、保険金を請求するというものです。この加害者が有する保険金請求権(交通事故の発生で顕在化してますが、被害者に賠償金を支払わないと行使できない)は、加害者が破産したときは、破産財団になり、他の債権者と共に平等で配当することになります。しかし、交通事故で発生した保険金請求権にもかかわらず、交通事故の被害者が他の債権者と同列に扱われるのはどう考えてもおかしいですから、保険法22条1項は、交通事故の被害者に、加害者の有する保険金請求権に対して先取特権を認めています。 先取特権とは、法律上当然に他の債権者に優先してその債権の弁済を受けうる権利です。先取特権を有する被害者は、優先的に保険金から回収することができます。
2 被害者の損害賠償請求権
交通事故の被害者は、加害者に対し損害賠償請求権を有しています。これは、加害者が破産した場合は、破産債権として扱われます。したがって、他の債権者と平等に配当を受けることができるに過ぎません。そして、最終的には、交通事故が加害者の故意か重過失で生じたものでない限り、加害者は損害賠償義務を免れることになります。なお、被害者が破産債権として行使できる損害賠償請求権の額は、上記1では回収できない額に限られます(破産法108条1項)。
3 被害者の保険会社に対する直接請求権
自動車損害賠償保障法16条に定める自賠責保険の直接請求権や、約款で定められた任意自動車保険の直接請求権を交通事故の被害者が行使することができます。これらの請求権は、被害者の加害者に対する損害賠償請求権とは別個独立のものとされています。(弁護士中村友彦)