治療中に保険会社から送られてくる同意書

   交通事故にあい病院に通院している間にかかる治療費は、通常の場合、加害者が加入している保険会社が支払ってくれます。しかし、いつまでも治療費を支払い続けてくれるとは限りません。保険会社が、交通事故による怪我とは関係ないことで通院していると判断したり、被害者の怪我は治ったと判断したような場合には、治療費の支払いを打ち切ってきます。これらを保険会社が判断するには、被害者の体の症状についての情報を取得しなければなりません。

 ところが、後述するように被害者の情報というものは、法的な保護がなされていますから、保険会社は自由に交通事故の被害者の情報を取得することができません。そこで、加害者の保険会社から送られてくるのが、「同意書」です。

1 被害者の情報の保護

(1) 守秘義務

① 医師の守秘義務

  刑法134条には、「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったこととについて知り得た人の秘密を洩らしたときは、6ヶ月以上懲役又は10万円以下の罰金に処する。」とされています。したがって、病院が、交通事故の被害者の医療情報を勝手に保険会社に伝えれば、刑事責任の問題になります。

② 柔道整復師の守秘義務

  交通事故で負った捻挫や脱臼などの治療のために整骨院(接骨院)に通院することがありますが、柔道整復師にも医師と同じように守秘義務があります。柔道整復師法17条の2では、「柔道整復師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。柔道整復師でなくなった後においても同様とする。」と規定され、この規定に反した場合、柔道整復師法29条1項2号で50万円以下の罰金の可能性があります。

③ 鍼灸師の守秘義務

  交通事故の治療として、鍼灸院に通院する場合もありますが、鍼灸師という言い方は正確ではなく、はり師ときゅう師のことです。あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律7条の2では、「施術者は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。施術者でなくなった後においても、同様とする。」とされ、これに違反すると50万円の罰金となります。

(2) 個人情報保護法

① 病院等に対する規制

  個人情報保護法とは、正式には、「個人情報の保護に関する法律」といい、個人情報を取り扱う事業者に対して、個人情報保護のために各種の規制をしている法律です。この個人情報保護法23条1項では、一定の場合を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならないとされています。ですから、病院等が被害者の医療情報を勝手に第三者である保険会社に伝えることは、個人情報保護法に反し、最悪の場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金になることがあります。

② 保険会社への規制

   個人情報保護法は、病院との医療機関に対する規制だけでなく、保険会社に対しても、情報の取得について規制しています。個人情報保護法17条では、偽りその他不正な手段により個人情報を取得することについて禁止しています。もし、保険会社が本人に黙って勝手に情報を取得することは、最悪の場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金になることがあります。

(3) 契約上の問題

 病院等は、患者との関係で診療契約を締結しています。その診療契約の中には、守秘義務も含まれていますから、勝手に情報を第三者に提供することは、契約違反として債務不履行責任又は不法行為責任になりえます。そして、情報を取得した第三者自体もケースによっては、勝手に情報を提供した病院等との共同不法行為責任が成立することもあります。

2 保険会社から送付されてくる同意書

 上記で述べた交通事故の被害者の情報の保護に関する規制をクリアするために、保険会社は被害者から同意書を取り付けます。保険会社自体が情報を取得することに問題がなくなりますし、病院等が医療情報を提供することについても問題がなくなります。交通事故の被害者は、保険会社から同意書の提供を求められれば嫌だとは思いますが、同意書を提出しなければ直ぐに治療費の支払いを打ち切られる可能性が高いです。

 交通事故の被害者の選択肢としては、①保険会社に従って同意書を送付するか②同意書を提出せず、治療費の支払いを打ち切られれば自費で(当然健康保険を使用します)で通院するかということになるでしょう。

3 保険会社による医療照会

 同意書を提出している場合、保険会社から病院に対し、交通事故の被害者の症状についての医療照会がかけられます。その医療照会のなかで、被害者の愁訴のみで治療等と書かれ、症状固定時期の争いなどで、後日裁判の際に不利な証拠となることがあります。同意書を提出するにしてもよく考えないといけないでしょう。

 

 交通事故で負傷し、治療中の段階では弁護士に頼む必要はないと考える人はいるでしょうが、治療中の行為が後の裁判等の際に不利な事情となることがあります。なるべく早く専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。(弁護士中村友彦) 

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