交通事故の損害のうち、よく争いになるものに、車両が全損になった場合の買替諸費用があります。示談交渉時には、損害項目の認容の是非や、認容されたとしてもその内容や金額が争いになることがあります。資料として、車両の購入関係の資料を提示しても、車両の販売会社が買替諸費用の内訳を詳しく記入せずに見積書等を作成しているため(その他諸費用などの記載)、示談交渉時や裁判のときに問題になることがあります。
そして、そのような買替諸費用のうち、交通事故による損害として認められるかが問題にとなるものに陸送費が挙げられます。
1 買替諸費用としての陸送費
納車費用に含まれている場合もありますが、遠方から購入した車両を運転して運んでももらうなどして、陸上輸送する際にかかる費用です。例えば、横浜にある中古車を購入した場合、それを購入者が住んでいる大阪に運んでもらうようなケースです。
なお、陸送費自体は、修理のために車両を運ぶためにかかる費用といった買替諸費用以外の意味合いで、その損害項目の是非・金額が争われることがあります。
2 買替諸費用としての陸送費に関する裁判例
陸送費自体が車両を購入したときに常にかかるものではありませんので、車両を購入する場合に通常の損害と言ってよいのか等で争いになります。
東京地方裁判所平成22年2月25日判決(平成21年(レ)第602号、平成21年(レ)第675号)は、陸送費として5万3550円が請求された事案ですが、他の買替諸費用の項目とともに、交通事故と相当因果関係のある損害として認容しています。
3 買替諸費用以外の意味合いとしての陸送費に関する裁判例
修理のために車両を運んだり、ナンバープレートの交換のために費用がかかった場合です。
(1) 東京地方裁判所平成27年3月11日判決(平成25年(ワ)第34301号)
交通事故で車両が損傷し修理をしましたが、修理後のナンバープレートの交換のためにかかった陸送費が問題になりました。被害車両が神戸ナンバーであったことから、神戸ナンバーに交換するための川崎から神戸までの陸送費用・ナンバープレート代5250円の合計10万円が請求されましたが、上記東京地裁判決は、ナンバープレート交換費用5250円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認めるとして、陸送費を否定しました。
(2) 大阪地方裁判所判決平成26年7月31日判決(平成25年(ワ)第12054号)
修理のために運ぶ陸送費4万5000円と、修理後業者に車両を持ってきてもらう陸送費3万円の合計7万5000円が問題になりました。上記大阪地裁判決は、自走可能であっても損傷の状態からそのまま走行させるのは危険として、修理のための陸送費4万5000円は認容しましたが、修理後にかかったものについては、「修理後においては、自走可能である上、修理業者による陸送が当然に行われるものとも限らないから、修理後の陸送費用を本件事故による損害と認めることは相当ではない。」として、陸送費を否定しました。
(弁護士中村友彦)